2012年2月19日日曜日

掛魚まつり(その1)

例年、秋田の年明けはマダラ漁で始まる。しかし、今年2012年は時化が多く出漁できた日が1月では数日しか無かったようだ。この時期、秋田のマダラは成熟を迎え、雄は特に大きく発達したダダミと呼ばれる精巣を抱えて価格も高い。雌の卵巣は、真たら子とか真子(まこ)と呼ばれ、あらかじめ千切りして炒めたゴボウやコンニャクなどに真子を加え醤油、砂糖、酒で味付けして炒り煮にしたものは、子供の頃に良く食べさせられた記憶に残る懐かしの味である。
海さえ凪れば一稼ぎできるのに、いつとも知れぬ時化の収まりを待つしかない漁師達の気持ちは何ばかりか。さて、秋田県の沿岸、山形県に近いにかほ市金浦(このうら)地域では、毎年立春2月4日に「掛魚(かけよ)まつり」が行われる。別名「たらまつり」とも呼ばれて、徳川家五代将軍綱吉、松尾芭蕉が暮らした元禄年間(1688~1704)から始まる300年の伝統をもつと言われる。氏神様や恵比寿様に供える魚のことを掛魚(かけよ)と呼び、祭りでは海上安全や豊漁、商売繁盛を願い、体長約1m、体重15キロ前後の大ダラが、2人1組の漁師らに竹ざおで担がれて、金浦山(このうらやま)神社に奉納される。例年にない時化続きで、地元産のタラは準備できずに、北海道から取り寄せたとのこと。かつては、タラ漁師各々が一番大きなタラが選ばれて奉納されていたと言う。







大人に続いて、子供たちもタラを担いで参道を登る。参道を登りきった社のそばにタラは吊るされ奉納となる。吊るされたタラの周りを子供たちや多くのカメラマンが取り囲み、神楽の奉納もあり、境内は大賑わいになる。それでも小一時間もすると、境内は人影もまばらとなるが、拝殿のなかでは、厳かに神事が続けられていた。






 

2012年2月17日金曜日

北限の秋田ふぐ(その3)

少しばかり前の話になるが、秋田県司厨士協会が主催し「 “北限の秋田ふぐ”を楽しむ夕べ」というイベントが開催された。高級魚トラフグの北限の産卵場が秋田沖にあることと、ゴマフグやショウサイフグなど他のフグ類の水揚げも北日本の中では多いことから、秋田で獲れるフグをまとめて「北限の秋田ふぐ」と呼ぶ。このネーミングは秋田のフグ類の知名度向上と消費拡大によって、秋田県の漁業振興を図ろうと、平成21年からスタートした県の事業に冠された名称で、これからの成長が楽しみな期待のルーキーである。フグと言われて直ぐに連想するのは、あの愛くるしい姿形である。では次にとなればやはり「毒」か。しかし、市場に流通し、飲食店で食べたり、鮮魚店やスーパーで購入できる状態のフグは、資格保有者の手による除毒がすでに済んでいて安心して食べることができる。たまに食中毒の報告があるが、そのほとんどの場合は、無資格者の素人調理か、あえて有毒な特に肝(肝臓)を食べようとする客と、提供する飲食店によるようだ。いずれにしても「フグは喰いたし命は惜しし」と喩えにもなるように、それほどまでにしてもフグが美味いのは確かなようだ。さて話は「“北限の秋田ふぐ”を楽しむ夕べ」。秋田沖で獲れたトラフグやゴマフグ、ショウサイフグを使ったメニューが、和洋中に温製に冷製もありで全10種類。恐らく、フグ自身も初体験であろう料理もあり驚いているようだ。次の写真の当日配布のメニューのとおり。少し縦長になるが、ご覧いただこう。この中で、最初の写真と、二段目のにぎり寿司がトラフグであるが、あまり調理の手をかけないのがトラフグの美味さのようだ。少し固めの身肉が、逆に飲み込むのを妨げて、旨味をいつまでも楽しめるのが嬉しい。その他はゴマフグとショウサイフグ、こちらの2種類は、いろいろな調味との出会いを楽しむのが身上のようだ。

河豚のカクテル洋風てっさ仕立て

河豚づくし 創作和前菜盛り合わせ(洋風博多押し、創作にぎり寿司、
ベーコン釜白子焼、河豚と鱈場蟹の磯辺チーズ揚げ、東寺蒸し)

河豚のばっけ味噌入りキリタンポのフライ
河豚の生ハム巻き、スパニッシュスタイル
河豚の香草包み焼きアメリカン
河豚とチェリーの赤ワイン煮込み

秋田のトラフグは、産卵のため沿岸に集結する5~6月と、冬の鍋シーズンの10〜11月頃の年に二度の旬がある。秋田にいながら季節を変えて楽しめるのである。なんと口福なことか。しかも、初夏のトラフグは比較的安価であるので、機会があればぜひ楽しむべし。幸いにして、数年前に比べて、「北限の秋田ふぐ」を食べられる店舗は着実に増えてきている。その証拠に二次会では、ゴマフグの白子焼きをペロリと平らげた。フグ類に特徴的なというか、ふんわりと軽快な白子感である。

こちらは二次会にて・・・ゴマフグの白子焼き




2012年2月12日日曜日

2012ハタハタ・ヌーベル・キュイジーヌ

開店の挨拶で、秋田と言えばハタハタと書いた。そして秋田でハタハタと言えば、「塩焼き」、「しょっつる鍋」、「飯寿司」、「湯引き」、「三五八漬け」、「田楽」、「から揚げ」、「干物」などなど多様な食べ方がある。秋田のハタハタは産卵のために、11月から12月にかけての1~2週間の極めて短い間に、大量にかつ一気に沿岸の浅場に押し寄せてくる。それを小型の定置網や刺し網で漁獲するのであるが、いずれにしても、盛漁期の浜はてんやわんやの大騒ぎとなる。だからであろうか、食べ方のレパートリーも、一度に大量に処理できる調理方法が発達したのかも知れない。それに、秋田でハタハタを生で食べる習慣は、知る限り無い。なお、秋田の県魚ながら最近需要は伸び悩んでいて、消費拡大のため業界でも「酢〆」は手がけるようになり食べる機会もあった。しかし「刺し身」は皆無であった。それが、秋田のハタハタ食文化である。そのはずであった。
なのにである。断りも無く「活け造り」の登場である。当然のことながら、魚を味わう順序としては、まずは生からである。しかし、秋田のハタハタ漁の忙しさは、ハタハタを捌いて、皮をひいて食べる暇を与えなかった。それゆえ、生食は発達しなかったのであろう。
そのつもりで生きてきた秋田県人が、突然、ハタハタの刺し身に出会ったのである。しかも、活け造りである。時は2012年1月7日、場所は潟上市の道の駅にある「地魚工房えがわ」にて。生簀から取り出されたハタハタが調理場へ向かうのを見届けてから、待つこと数分で、それは目の前に現れた。口をパクパク動かしながら・・・秋田県人(私)が初めて出会う「ハタハタ活け造り」である。
秋田のハタハタは、加熱、乾燥、あるいは発酵のいずれかの調理過程を経たものであるが、これは、まさに究極のハタハタ・ニューベル・キュイジーヌ。包丁を入れるほかは、まったく調味もされず、ハタハタ本来の味を味わう一品である。
さっそく、家に持ち帰り、晩の食卓を飾る。従来のハタハタ料理しか食べたことの無い者にとって、生食はそれなりに勇気の要る行為である。恐る恐る、それでもいくらかの期待を胸に、震える手で箸をのばし、刺し身にしては小さな一切れを口に運んでみる。細やかな脂とうっすらとした旨味を感じる。細やかな繊維の肉質は川魚を思い起こさせる。思いのほか旨い。白子も臭みもなくさっぱりとした味わいであった。刺し身は一切れが小さいので、2~3切れを一度に味わうと旨味も多く感じられる。少し残して次の日の晩も食べてみるが、旨味が増して良い。
隣の山形県では、しばらく前から刺し身で食べている話は耳にしていたが、秋田のハタハタ食文化の中にあって、活け造りは、決して、奇をてらった食べ方ではなく、十分に定着する可能性を見た。
ハタハタには2つの旬がある。成熟前の脂ののった秋のハタハタと、特に成熟したブリコを味わう冬のハタハタである。前者は深海に生息している時期であり、底びき網で漁獲される。実は「塩焼き」を食べるなら秋のハタハタが一番である。ならば刺し身はどうであろうか。今から秋が楽しみである。