2013年3月3日日曜日

真冬の百鬼夜行〜樽烏賊拾い〜

 少し旬をはずれた話で恐縮だが、12月から1月の寒風吹きすさぶ真冬だというのに、秋田では夜もあけやらぬ浜辺をうろつく人々がいる。遠目にみれば、ぶらぶらと散歩しているようにしか見えないが、彼らは必死になり探し物をしているのだ。その彼らのそばに近付いて顔を覗き込んだら、まるで妖怪のような異形に腰を抜かしてしまうはずだ。彼らの目玉は人のものではなくなっている。タカの目になったり、ウの目になっていたり、時には皿になっている。まるで百鬼夜行のようだ。それを見たあなたの目はテンになり、そして、その目は彼らの探し物に奪われてしまう。
 彼らの探し物とは一体何か。答えは烏賊だ。たかが烏賊?と思われる方も多いと思うが、自分の目玉を、鵜の目鷹の目、それに皿にしてまで探すのだから、ただの烏賊ではないのだ。そう食用では世界最大級の大きさなのである。タルイカだ。
 本名はソデイカ。胴体の両側にある大きなヒレが袖のようだから、腕にあるヒダが袖のようだからと、名前の由来には2説があるようだ。日本のはるか南の海で生まれ、海流に運ばれてやってくるのだと云う。最大では胴体が85cm、体重20kgにもなる。
 秋田の海には真冬にやってくるが、浜辺に漂着することがある。これを狙って、鵜の目鷹の目、目が皿の百鬼夜行が出現するのだ。

これは鳥取県賀露の「海鮮市場かろいち」にて(2012年10月26日)
このタルイカ、あまりに巨大であるので、丸の姿でお目にかかることは、まず無いといって良く、普通は皮を剥かれた身が、やや大きめの板こんにゃくのような姿に整形されて、冷凍状態で店頭に並ぶ。今回はそれを1パック買い求め、刺身、寿司、ステーキ、天ぷらで食べてみた。

秋田の店頭ではブロックで並ぶ
刺身は短冊上に造るのが一般的なようだ。ねっとりと柔らかい中にも、歯応えがある
ネタとシャリが渾然となるタルイカの寿司
まず、最初は刺身をわさび醤油で。ねっとりとした柔らかさが特徴であるが、心地よい歯応えがありつつ、溶けるように胃に収まる。巨体の割に大人しく、そして甘い。スルメイカとアオリイカをミキサーして固めたようとでも言えば良いか。寿司にしても良い。ステーキは、薄切りニンニクとオリーブ油で焼き上げる。するとあの柔らかさはどこに?と驚くほどの弾力が出てくるが、抵抗は一瞬で、歯はすっと通ってゆく。天ぷらは、アオリイカの甘さに、スルメイカの弾力が加わったようである。いずれも美味いが、加熱するとどうしても大味な感じが出てきてしまう気がするので、個人的には刺身が良い。けれども、フライは試したことが無い。そして、どうせならイカリングを作ってみたいし、ゲソ天も食べたいが、これは今後の課題にしよう。

厚さ5cmはあろうか。タルイカステーキ
天ぷらはアオリの甘さにスルメの弾力。美味い。
ところで、対馬海峡の水温と、タルイカの水揚げ量には強い関係性があって、6月の水温が高いと山陰地方では水揚げが増えるのだそうだ。そして、秋田への漂着も多くなると思われる。実際、昨年(2012年)6月の対馬海峡の水温は比較的高かった。秋田でも男鹿の鮮魚店で聞いたところ、果たして例年よりも入荷量は多かったそうだ。
 さて、このタルイカ、何年かかってあの巨体にまで成長するのだろうか。答えは1年に満たないそうだ。そんな短い間に、最大では、胴体が85cm、体重では20kgにもなるのだ。しかも、それが寿命なのである。これを聞いて、皆さん、今度は度肝を抜かれたはずだ。すでに腰を抜かれ、目も奪われている。そして、タルイカを食べる日を待ち望んで首を長くしているあなたは、ほら、鏡を見てみよう。すでに百鬼夜行の一員だ。