2013年9月15日日曜日

食べたら、バイまわしだ。

 巻貝のバイでつくった「コマ」が、ベーゴマの語源であって、江戸の昔には、「バイコマ」とか、「バイまわし」などと呼ばれていことは知っていたが、実はあの貝殻をどうやってコマのように回すように出来るのかが分からなかった。現在、日本で唯一のベーゴマ製造販売元である株式会社日三鋳造所のホームページ(http://www.beigoma.com/rekishi.htmlにも、貝殻を回して遊ぶ昔の子供達の挿し絵があって「バイ貝の貝殻に、砂や粘土を詰めてヒモで回したのが始まり」とあるだけだ。その挿し絵を見ても、特に貝殻本体に細工している様子もない。これじゃ回らんだろうと常々考えていたのである。
とある日、とある漁港の祭りにて
  たしかにバイは、トゲトゲのサザエなどと違ってクルクルと回りやすそうな感じはするのは確かだ。けれども、やっぱり、そのままではバランスの悪そうな大きく開いた殻の口がとても気になる。きっとただ砂や粘土を入れただけでコマにした時は、長くは回らずに、すぐに倒れてしまいそうだ。そんな先入観もあって、確かめもしないままに、ベーゴマの謎はそのまましておいたのであった。
 そうしていたところの、とある休日。たまたまテレビを付けていたら「ベーゴマのベーの語源」を追求するというタイトルの番組が始まった。「語源?知ってるよ。貝でしょ。巻貝のバイでしょ。バイ。当然、そんなこと知ってるよ。」と、優越感に浸りながら番組を見ていた。

茹でる前に、塩水中で泥を吐かせるべし
するとである、なんとである、バイの貝殻を使った「バイゴマ」の作り方の紹介が始まった。その瞬間、どっぷり浸っていた優越感が、すーっと消え去った。すぐさま、画面に食いつき、じっくりとその様子を観察する。なるほど!そうであったか!やはり貝殻に砂や粘土を詰める前に行っておかねばならぬ工程があったのだ。それは、あのバランスの悪そうな、殻の口を外すことなのであった。
 積年の疑問が氷解すると、矢も盾もたまらなくなって、すぐにも試してみたくなったが、そのためには、バイの殻が必要だ。バイの殻を手に入れるには、普通、スーパーに行っても、殻だけでは販売されていないし、砂浜を歩いてもバイの貝殻はなかなか見付けることが出来ない。手っ取り早いのは、売っているバイを買ってきて中身を食べることだ。
 番組を見てすぐに、たまたま近くの漁港でイベントがあって、露店でバイが売られていたのを見付けた。すかさず購入する。塩水中で泥を吐かせてから、熱湯に3分ほどくぐらせたら冷水で洗い、その後、醤油、みりん、砂糖、酒それぞれ適量の煮汁で7分ほど。煮汁が冷めれば柔らかいバイの煮付けが出来上がる。

味付けする前に、3分ほど、ボイルするのが柔らかく煮付けるコツ。
それを知るまでに5回ほど失敗した。
身肉は、たおやかなサザエといった感じで、適度な弾力があるけれども、するりと歯が通っていく。蕩けるように甘いワタも旨い。
 いつもであれば、食べた後の殻は捨ててしまうので、ワタの先っぽが少し千切れてしまってもそのままにしておくのであるが、今回の眼目は殻を使うことにあるので、いつにもまして、慎重に丁寧にワタを取り出して食べる。それでもどうしても殻の奥に千切れたワタが残ってしまうことがある。そんな場合には、殻に水を満たして揺さぶってやるとポロリと出てくる。その後、殻を丁寧に洗い上げて天日干しにする。 きれいに貝殻が乾いたら、バイコマ作りに、いよいよ取りかかる。


 件の番組で紹介されたところの方法、つまり、棒ヤスリで、ジコジコ、ジコジコと貝殻の加工に入る。貝殻の表面は、硬くて、ツルツルと滑るので、棒ヤスリの歯を同じ場所に当て続けるのが難しい。殻の先端から全体の1/3ほどのぐるりに溝を掘り終えるまで15分ほど。その溝を境目にして、大きな口側の殼をトンカチで壊していく。その後に見えてくる中軸もジコジコしながら丁寧に取り外す。
殻を壊していくと、これまた手ごわい中軸が現れる。。。
先のとがった方から殻の1/3(右)ほどを「コマ」に使う。
  実は、ここからのバランス調整も難しかった。まず、中軸の穴に、短く折ったつまようじを刺し、普通のコマようのように回す。ぐらつかずに少しでも長い時間回るように、何度も少しずつ殻を削っては微調整する。
 その後で、殻に砂を入れて重りにし、溶かしたロウを注ぎ込みフタをするのである。フタのロウが固まったら、いよいよ「ベーゴマ」にしてみる。殻がつるつるで良く滑るので、ヒモを巻き付けるのもままならない。

 いよいよ、本物の「ベーゴマ」を回す。頭の中では、テレビで見た映像、すなわち、「ベーゴマ」がきれいにクルクルと回り続けるさまが繰り返し放映されいるのだが、果たして、うまく回らない。すぐに止まってしまう。なので、ここから、また、微調整を行う。この微調整がなかなか難しい。回しては余分な殻を削り、回しては削りを繰り返す。江戸時代の子どもたちの遊びへの情熱が感じ取れるようだ。恐らく、詰め込む砂の質や量を変えたり、貝殻の削り方など、勝負に勝つためのいろんな工夫があったのだろうと思う。
今のところ、回転最長タイムは45.2秒。場所さえ良ければもっと回ると思う。。。

後列の白とピンクが良く回る。
 さて、現代の大人もどうにかこうにか、1分近くは回る、昔ながらの本物の「バイコマ」、「バイまわし」を作ることが出来た。
 皆さんもバイを見付けて食べたら、ぜひ「バイコマ」、「バイまわし」で遊んでみてください。
 その代わり、上手く回らなかったからといって、「やられた!」、「倍返しだ!」なんて言わないでくださいね。